大阪地方裁判所 平成11年(ワ)5957号 判決
原告 エバーグリーン上本町管理組合法人
右代表者理事 高見輝
右訴訟代理人弁護士 柳川博昭
被告 相原万太郎
被告 千野眞士
右両名訴訟代理人弁護士 村林昌二
被告 株式会社熊谷組
右代表者代表取締役 松本良夫
右訴訟代理人弁護士 亀田利郎
主文
一 本件訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、各自金二〇〇〇万円及びこれに対する被告相原万太郎は平成一一年七月二〇日から、被告千野眞士は平成一一年七月二八日から、被告株式会社熊谷組は平成一一年七月一五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2(一) 被告相原万太郎は、別紙物件目録記載の土地上で、焼肉屋の露店営業を行ってはならない。
(二) 被告相原万太郎は、原告に対し、別紙物件目録記載の土地上に設置した露店及び附属設備を撤去せよ。
3 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 原告は、建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)四七条に基づき、大阪市天王寺区小橋町一二番一五号所在のマンション「エバーグリーン上本町」(以下「本件マンション」という。)の建物及びその敷地並びに付属施設の管理を目的とし、本件マンションの区分所有者全員を構成員として、昭和五九年七月一九日に設立された法人である。
(二) 被告相原万太郎(以下「被告相原」という。)は、被告千野眞士(以下「被告千野」という。)から、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を賃借し、「万正」の屋号により焼肉屋の露店を営んでいる。
(三) 被告千野は、被告株式会社熊谷組(以下「被告熊谷組」という。)の従業員であり、被告熊谷組から本件土地を買い受けてこれを所有するものであるとともに、被告相原に対し、被告相原が本件土地において焼肉屋の露店の営業を行うことを知りながら、これを賃貸したものである。
(四) 被告熊谷組は、その所有に係る土地の上に本件マンションを設計、施工し、その敷地とともに本件マンションの各室を分譲したものであるとともに、被告千野に対し、本件マンションの敷地に接する南西端の一角である本件土地を売却したものである。
2 不法行為に基づく損害賠償請求(請求の趣旨1)について
(一) 騒音被害等の発生に至る経緯
(1) 被告熊谷組は、昭和四八年六月一日以降、大阪市天王寺区小橋町一三番四の土地を所有していたところ、昭和五四年九月五日、右土地から本件土地を分筆した上、同年一一月に本件マンションの建築に着工し、昭和五五年九月に竣工した。
その後、本件マンションの区分所有者の入居が、同年一〇月から始まった。
(2) 被告熊谷組は、被告千野に対し、昭和五六年一〇月二二日、社内入札の結果、本件土地を売却した。
なお、被告熊谷組は、その際、右売却について、法人化して原告となる前の本件マンションの管理組合や入居者等との間で、全く協議をしなかった。
(3) その後、被告千野は、平成一〇年に至るまで、本件土地を駐車場として第三者に賃貸していた。
その間の昭和六〇年から昭和六三年にかけて、原告の理事であった我妻恵三が、被告千野に対し、原告において本件土地を買い取りたいとの意向を示したが、これに対し、被告千野は、原告の資産で買い取ることのできる金額ではないとして、暗に法外な代金を示唆したが、原告は、当時十分な資産を有していなかったことから、それ以上の交渉はしなかった。
(二) 騒音被害等の発生
(1) 被告千野は、被告相原に対し、平成一〇年五月一日ころ、本件土地を賃貸し、被告相原は、右同日ころ、本件土地上に焼肉屋の露店の店舗を組み上げ、「万正」の屋号により焼肉屋の露店の営業を開始した。
右焼肉屋の営業時間は、毎月第二及び第四水曜日の休業日を除き、ほぼ午後六時ころから午前〇時ころまでである。
(2) しかしながら、被告相原が右営業を開始した後間もなく、右営業によって、本件マンションの住民に、深夜に及ぶ酔客の声による騒音、調理時の煙、右露店に便所がないために右露店の西側の道路上で客が用便をすることによる臭気、客を右露店内だけでなく右道路上においても飲食させることによる本件マンションの住民の通行の用に供されるべき右道路の通行妨害といった被害が発生した。
特に、本件マンションの南西側の区分所有者にとっては、右の騒音及び煙の被害は甚大かつ深刻であって、本件土地に最も近い本件マンションの二階南西端の室に住む小池正晴方では、右被害は死活問題となっており、被告相原に対して直接苦情を述べたものの、被告相原は、営業妨害であるなどと開き直った上、全く営業の姿勢を改めなかった。
(3) その後、原告は、被告千野及び被告相原に対し、右焼肉屋の露店の営業方法の改善又は撤去を求める書面を交付し、回答を求めたが、誠意のある回答はなかったのみならず、被告千野は、原告や本件マンションの住民(区分所有者)に対して営業妨害であるとなじるなどした上、平成一〇年九月二七日には、本件土地の買取り価格について、二〇〇〇万円か三〇〇〇万円と法外に高い金額をにおわせた。
(三) 被告らの責任原因及び損害額
(1) 被告相原について
被告相原は、自らが行っている前記焼肉屋の営業によって、本件マンションの住民(区分所有者)に前記(二)(2) の被害を与えたものであり、これは、生存権又は後記3の権利に対する重大な侵害であって、原告からの再三の改善の申入れによって被害が生じていることを知りながら、右営業を継続しているのであるから、不法行為を構成することは明らかである。
本件マンションの住民(区分所有者)は、全部で一〇五世帯であるから、被告相原による右不法行為によって本件マンションの住民(区分所有者)が被った精神的苦痛は、二〇〇〇万円を下らない。
(2) 被告千野について
被告千野は、被告相原に対し、被告相原が本件土地において焼肉屋の露店の営業を行うことを知りながら、これを賃貸したものであるが、本件土地において右のような営業を行った場合には、本件マンションの住民(区分所有者)に前記(二)(2) の被害が発生することは容易に予見することができたにもかかわらず、それを認容し、あえて本件土地を賃貸したものであり、この行為は、本件土地の所有者として公共の福祉から許容される権利の範囲を逸脱しており、所有権の濫用として不法行為を構成するとともに、右不法行為は、被告相原の不法行為との共同不法行為に該当する。
また、被告千野は、勤務先である被告熊谷組から、原告に対して高額で売却する意図の下で、本件土地を買い受けた上、原告に対し、高額で本件土地を買い取るように示唆し、もって不安を与えてきたものであり、これは、被告熊谷組の従業員として、本件マンションの住民(区分所有者)に対して損害を与えないように配慮すべき注意義務に反し、不法行為を構成するとともに、後記(3) の被告熊谷組の不法行為との共同不法行為に該当する。
さらに、被告千野は、後記4(一)のとおり、被告相原との間の本件土地についての賃貸借契約の解除等をすべきであるのに、これをしないで右契約を存続させ、被告相原に対して善処方を指示することもなく、原告や本件マンションの住民(区分所有者)に対して営業妨害であるとなじるなどしたものであり、これも、本件マンションの住民(区分所有者)に対して損害を与えないように配慮すべき注意義務に反し、不法行為に該当する。
被告千野の右不法行為によって本件マンションの住民(区分所有者)が被った精神的苦痛が、二〇〇〇万円を下らないことは、右(1) のとおりである。
(3) 被告熊谷組について
被告熊谷組は、その位置、面積及び形状から見て、本件マンションの敷地として利用されるべき本件土地を、本件マンションの管理組合や住民(区分所有者)との間で協議をすることなく、従業員である被告千野に対して売却したものであるところ、本件マンションは、被告熊谷組が施工し、分譲したものであるから、被告熊谷組には、分譲後においても、本件マンションの共同利益に意を尽くすべき注意義務がある上、従業員である被告千野がその所有権を濫用して本件マンションの住民(区分所有者)に被害を生じさせないように指導監督すべき保護義務があるにもかかわらず、これを怠って本件マンションの住民(区分所有者)に被害が生じるのを放置したのであるから、これも不法行為を構成するとともに、被告熊谷組の右不法行為は、被告相原及び被告千野の不法行為との共同不法行為に該当する。
被告熊谷組の右不法行為によって本件マンションの住民(区分所有者)が被った精神的苦痛が、二〇〇〇万円を下らないことは、前記(1) のとおりである。
(四) 原告による任意的訴訟担当
原告は、本件マンションの区分所有者から、訴訟追行権を含む包括的な管理権を有し、これに基づいて、任意的訴訟担当として、本訴を提起するものである。
すなわち、原告の目的は、前記1(一)のとおりであるほか、原告は、被告相原による不法行為が始まった後、本件マンションの区分所有者の署名により、市役所等の行政庁に苦情の申出を行ったほか、平成一〇年一二月六日に開催された原告の臨時総会において、本件土地について弁護士に問題解決を依頼することの承認決議を受けている。さらに、原告は、本訴の内容について、個々の区分所有者よりも知識及び経験を豊富に有しており、本件訴訟の結果に対しても、原告は、本件マンションの区分所有者と同程度又はそれ以上の密接な利害関係を有している。
したがって、原告による任意的訴訟担当は許容されるべきである。
(五) よって、原告は、被告らに対し、民法七〇九条、七一〇条、七一九条に基づき、二〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の後であり、訴状送達の日の翌日(被告相原については平成一一年七月二〇日、被告千野については同月二八日、被告熊谷組については同月一五日)から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 露店の営業差止請求(請求の趣旨2(一))について
(一) 物権的請求権に基づく請求
(1) 本件マンションの区分所有者は、本件マンションの専有部分に対する区分所有権並びに共用部分及び敷地に対する共有持分権を有している。
(2) 被告相原は、前記2(二)(2) の騒音等の被害を発生させ、本件マンションの区分所有者の区分所有権及び共有持分権を侵害している。
(3) したがって、本件マンションの区分所有者は、被告相原に対し、右区分所有権及び共有持分権に基づく妨害排除請求として、焼肉屋の露店の営業の差止めを請求することができる。
(二) 人格権に基づく請求
(1) 本件マンションの区分所有者及び占有者(賃借人)は、憲法二五条、憲法一三条、環境基本法三条により、精神、身体、健康、自由を害されず、平穏かつ快適な生活を享受する権利である人格権を有する。
(2) 被告相原は、前記の騒音等の被害を発生させ、本件マンションの区分所有者及び占有者の人格権を侵害している。
(3) したがって、本件マンションの区分所有者は、被告相原に対し、人格権に基づく妨害排除請求として、焼肉屋の露店の営業の差止めを請求することができる。
(三) 原告の任意的訴訟担当
前記2(四)と同じ。
(四) よって、原告は、被告相原に対し、本件マンションの区分所有者の区分所有権及び共有持分権に基づく妨害排除請求として、又は本件マンションの区分所有者の人格権に基づく妨害排除請求として、焼肉屋の露店の営業の差止めを求める。
4 露店等の撤去請求(請求の趣旨2(二))について
(一) 債権者代位に基づく請求
(1) 被告千野は、被告相原が焼肉屋の露店の営業を行うことにより本件マンシヨンの住民(区分所有者)に甚大な被害を与え、それが不法行為を構成するものである以上、公共の福祉の見地から所有権者としての権能に自ら制限を加え、被告相原との間の本件土地についての賃貸借契約を解除し、又は右契約の解約の申入れをして、被告相原に対し、焼肉屋の露店及びその附属設備を撤去させ、本件土地を明け渡させるべきである。
また、被告千野は、被告相原が焼肉屋の露店の営業を行うことにより本件マンションの住民(区分所有者)に甚大な被害を与えたことにより、原告から抗議を受けたり、住民総会に出席して質疑応答をさせられるなど迷惑を被った。したがって、被告千野と被告相原との間の信頼関係は破壊されている。
(2) しかしながら、被告千野は、被告相原との間の本件土地についての賃貸借契約を解除せず、右契約の解約の申入れもしない。
(3) そこで、原告は、本件マンションの住民(区分所有者)の被告千野に対する不法行為に基づく損害賠償請求権及び生存権に基づく営業差止請求権を保全するため、被告千野に代位して、被告相原に対し、訴状の送達をもって、本件土地についての賃貸借契約を解除し、又は右契約の解約の申入れをした。
なお、原告が右解除権を代位行使しなければ、被告相原の不法行為による損害額は無限に増加するから、右解除権を代位行使することによって、損害額を一定額に限定し、将来の執行を保全することができるという関係があるから、原告は、不法行為に基づく損害賠償請求権を被保全債権として、右解除権を代位行使することができる。また、原告が右解除権を代位行使することによって、被告相原は本件土地から退去せざるを得なくなるから、営業差止請求権は保全されることになるという関係があるから、原告は、営業差止請求権を被保全債権として、右解除権を代位行使することができる。
(二) 物権的請求権に基づく請求
(1) 本件マンションの区分所有者は、本件マンションの専有部分に対する区分所有権並びに共用部分及び敷地に対する共有持分権を有している。
(2) 被告相原は、前記2(二)(2) の騒音等の被害を発生させ、本件マンションの区分所有者の区分所有権及び共有持分権を侵害している。
(3) したがって、本件マンションの区分所有者は、被告相原に対し、右区分所有権及び共有持分権に基づく妨害排除請求として、焼肉屋の露店及び附属設備の撤去を請求することができる。
(三) 人格権に基づく請求
(1) 本件マンションの区分所有者及び占有者(賃借人)は、憲法二五条、憲法一三条、環境基本法三条により、精神、身体、健康、自由を害されず、平穏かつ快適な生活を享受する権利である人格権を有する。
(2) 被告相原は、前記の騒音等の被害を発生させ、本件マンションの区分所有者及び占有者の人格権を侵害している。
(3) したがって、本件マンションの区分所有者は、被告相原に対し、人格権に基づく妨害排除請求として、焼肉屋の露店及び附属設備の撤去を請求することができる。
(四) 原告の任意的訴訟担当
前記2(四)と同じ。
(五) よって、原告は、被告相原に対し、主位的には、債権者代位権の行使として、予備的には、本件マンションの区分所有者の区分所有権及び共有持分権に基づく妨害排除請求又は本件マンションの区分所有者の人格権に基づく妨害排除請求として、焼肉屋の露店及び附属設備の撤去を求める。
二 原告の当事者適格についての被告相原及び被告千野の主張
原告が主張する損害賠償請求権は、本件マンションの住民に帰属するものであることは明らかであり、区分所有関係に基づいて団体的に区分所有者に対して認められる権利とは異なるから、集会の決議という団体的決議方法によって管理組合法人である原告に訴訟を委託することは許されない。
また、原告が主張する人格権に基づく妨害排除請求権についても、同様に、管理組合法人である原告が任意的訴訟担当者となるのは、原告の目的及び業務の範囲を逸脱する。
その余の請求についても、同様に原告の当事者適格を争う。
三 請求原因に対する認否
1 被告相原の認否
(一) 同1について
(1) 同(一)及び同(二)は認める。
(2) 同(三)については、被告千野が本件土地の所有権を取得した経過は知らず、その余は認める。
(3) 同(四)は知らない。
(二) 同2について
(1) 同(一)はいずれも知らない。
(2) 同(二)のうち、同(1) については、被告千野が被告相原に対して本件土地を賃貸したのは平成一〇年四月一日であり、営業時間は毎週火曜日の休業日を除き、午後六時半から午前〇時までであるが、その余は認める。
同(2) については、本件マンションの住民から直接苦情を受けたこと、及びその際に原告が主張する内容に近い発言をしたことは認めるが、その余は否認し、又は争う。
同(3) については、被告相原が焼肉屋の露店の営業方法の改善又は撤去を求める書面の交付を受けたことは認めるが、その余は知らない。
(3) 同(三)のうち、被告相原に関係する主張は全て否認し、又は争う。
なお、原告の損害額の主張は、請求の特定を欠いている。
(4) 同(四)については、前記二のとおりである。
(三) 同3について
全て否認し、又は争う。
なお、原告の当事者適格については、前記二のとおりである。
(四) 同4について
全て否認し、又は争う。
なお、原告の当事者適格については、前記二のとおりである。
2 被告千野の認否
(一) 同1について
全て認める。
(二) 同2について
(1) 同(一)のうち、同(1) については、本件マンションの着工時期及び区分所有者の入居時期は知らず、その余は認める。
同(2) については、被告熊谷組が、被告千野に対し、昭和五六年一〇月二二日、社内入札の結果、本件土地を売却したことは認め、その余は知らない。
同(3) については、被告千野は、本件土地を買い受けた後、平成一〇年に至るまで、本件土地を駐車場として第三者に賃貸していたこと、及びその間、我妻恵三が、被告千野に対し、本件土地を買い取りたいかの意向を示したことは認めるが、その余は否認し、又は争う。
(2) 同(二)のうち、同(1) については、被告千野が被告相原に対して本件土地を賃貸したのは平成一〇年四月一日であり、被告相原が営業を行っている焼肉屋の営業時間及び休業日は知らないが、その余は認める。
同(2) は知らず、否認し、又は争う。
同(3) については、被告千野が焼肉屋の露店の営業方法の改善又は撤去を求める書面の交付を受けたことは認めるが、その余は知らず、否認し、又は争う。
(3) 同(三)は全て否認し、又は争う。
なお、原告の損害額の主張は、請求の特定を欠いている。
(4) 同(四)については、前記二のとおりである。
(三) 同3について
全て否認し、又は争う。
なお、原告の当事者適格については、前記二のとおりである。
(四) 同4について
全て否認し、又は争う。
なお、原告の当事者適格については、前記二のとおりである。
3 被告熊谷組の認否
(一) 同1について
同(一)及び同(四)は認め、その余は知らない。
(二) 同2について
(1) 同(一)のうち、同(1) は認め、同(2) については、被告熊谷組が被告千野に対して本件土地を売却したのは昭和五六年九月二四日であるが、その余は認める。
同(一)の(3) 以下はいずれも知らない。
(2) 同(二)はいずれも知らない。
(3) 同(三)はいずれも知らず、又は争う。
(三) 同3について
いずれも知らず、又は争う。
(四) 同4について
いずれも知らず、又は争う。
理由
一 まず、被告相原及び被告千野の主張を受け、被告熊谷組に対する請求については職権で、本訴における原告の当事者適格について検討する。
1 本訴の訴訟物及び請求原因によれば、原告が本訴で主張している、被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権、被告相原に対する露店営業の差止請求権及び被告相原に対する露店等の撤去請求権は、いずれも、本来、本件マンションの個々の区分所有者に帰属する権利であることは明らかである(なお、原告は、本件マンションの区分所有者が権利者であると主張しているのか、住民が権利者であると主張しているのか、必ずしも明確ではない部分があるが、右のとおり善解した上、以下の判断を示すこととする。ただ、仮に区分所有者以外の者の権利を主張しているとしても、区分所有者であることを前提とする主張に理由がないことになるのみで、その余は異なるところはない。)。
2 ところで、証拠によれば、次の事実が認められる。
(一) 平成一〇年一二月六日に開催された原告の臨時総会において、総組合員数一〇五名のうち、委任状を含めた出席した組合員六八名全員が、弁護士に対して問題の解決を依頼することを承認した(甲九)。
(二) また、本件マンションの区分所有者及びその家族、又はそれ以外の本件マンションの占有者及びその家族の合計二〇七名(合計八二世帯)は、平成一〇年七月一日ころ、「原告理事長高見輝」、「エバーグリーン振興町会会長川元政雄」及び「小橋西振興町会会長桜井謙次」名義で作成され、本件土地において営業中の露店に対して、近隣住民として請求原因2(二)記載の多大な迷惑を被っているため露店の営業の中止又は撤去を求めるので、同意する者は署名押印するように求める内容の「お願い」と題する書面に署名押印した(甲八。なお、署名は全部で二一一名分であるが、四名は重複している。)。
3 しかしながら、右2の事実によっても、本件マンションの区分所有者が、原告に対し、本訴を追行する権限を授権したことを認めることはできないし、仮に、そのような授権をした区分所有者がいたとしても、その区分所有者を特定するに足りる証拠はない。
4 また、右の点は措くとして、仮に、本件マンションの区分所有者の全部又は一部が、原告に対し、本訴を追行する権限を授権したとしても、区分所有法その他の法令上、そのような任意的訴訟担当を許容する規定はない上、任意的訴訟担当は、民事訴訟法が原則として訴訟代理人を弁護士に限り、また、信託法一一条が訴訟行為をなさしめることを主たる目的とする信託を禁止している趣旨に照らし、当該訴訟信託がこのような制限を回避、潜脱するおそれがなく、かつ、これを認める合理的必要がある場合には許容するに妨げないものの、一般に無制限にこれを許容することはできないというべきである。
これを本件について見るに、原告の目的が、本件マンションの建物並びにその敷地及び附属施設の管理であることは当事者間に争いがなく、右の目的は、区分所有法三条一項の規定と同じ文言であり、これと同趣旨に解すべきところ、同条にいう建物並びにその敷地及び附属施設の管理とは、区分所有法において区分所有者の団体的意思決定に服すべきものとされる事項を広く包摂するものと解すべきであるところ、本訴において原告が請求する、本件マンションの区分所有者らの被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権、被告相原に対する露店営業の差止請求権及び被告相原に対する露店等の撤去請求権のいずれについても、原告が右各権利を行使することによって、その全部であるか一部であるかはともかく、本件建物の区分所有者の共同の利益に資する面が皆無であるとまではいえないとしても、右各権利は、本件マンションの個々の区分所有者に帰属するものである以上、損害を被り、又は区分所有権及び共有持分権若しくは人格権を侵害されたと主張する各区分所有者が、個別に、その意思に従って行使し、処分することができるものであるから、原告において右各権利を行使することが、原告の目的に含まれるということはできないし、むしろ、各区分所有者が主張する損害や、区分所有権及び人格権の侵害の程度は、各区分所有者によって異なり得るのであるから、各区分所有者において右各権利を行使すべきであって、原告に任意的訴訟担当を許容する合理性があると認めることはできない。
もっとも、厳密にいえば、原告の請求のうち、本件その主張に係る共有持分権に基づく妨害排除請求としての、被告相原に対する露店営業の差止請求及び被告相原に対する露店撤去請求について見れば、一般論としては、管理組合法人が任意的訴訟担当によって右妨害排除請求をすることを認める余地はないではないが、本件に関する限り、原告の本訴請求原因を見れば、共有持分権に対する独立の侵害があったという趣旨の主張として取り上げることのできるものはなく、結局、区分所有権に対する侵害の主張と一体として主張しているものと解するほかはないから、右請求についても、右と異なる判断をすることはできない。
その他、原告は、本訴の内容について、個々の区分所有者よりも知識及び経験を豊富に有しており、本件訴訟の結果に対しても、原告は、本件マンションの区分所有者と同程度又はそれ以上の密接な利害関係を有していると主張するが、前段の主張は原告に任意的訴訟担当を許容すべき根拠になるものではないというべきであるし、後段の主張もその趣旨自体明らかではない上、原告に任意的訴訟担当を許容すべき根拠になるものでもない。
したがって、本件は、任意的訴訟担当が許容される場合には当たらないと解すべきであるから、原告の当事者適格を肯定することはできない。
二 よって、本件訴えはいずれも不適法であるからこれを却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 長野勝也)
物件目録
所在 大阪市天王寺区小橋町
地番 壱参番五
地目 宅地
地積 壱六・壱七平方メートル
(別紙図面の赤線で囲まれた「保留地」と表示ある部分)
配置図<省略>